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会社を決めたのは、小さな場面だった

こんにちは、中村です。

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いま働いている会社に決めたとき、最後に何で決めましたか。そう聞かれると、すぐには出てこない方が多いと思います。しばらく考えてから出てくるのは、たいてい小さな場面だったりします。

今回は、その小さな場面の話です。

求人票の下のほうで手が止まる

人を探している会社が求人票を書くとき、月給や休日や社会保険の欄は、わりとすらすら埋まっていくそうです。困るのは、そのあと。仕事の内容を書く欄のところで、ペンが止まってしまう。

転職した人に、いまの会社を選んだ理由を聞いた調査があります。厚生労働省が五年おきに出しているもので、いま出ている最新のものは2020年に行われました。少し前の数字ですが、一位は仕事の内容でした。賃金が高いから、は五番目です。

数字の話はここまでにします。人が会社を決めるときに見ているのは、そんなに大きなことではないのかもしれません。

庭をつくる会社で聞いてみる

ここからは作りごとの話です。社長と職人が六人の、庭をつくる会社を思い浮かべてください。個人のお宅の庭を、設計から、木を植えるところ、剪定まで請けています。

ここ三年のあいだに入った三人へ、こんなふうに尋ねてみます。ほかにも受けていた会社があった中で、うちに決めたのは何でしたか。

面接のときに見せてもらった庭の写真が、どれも違う庭だったこと。

一年目から自分の担当の現場を持たせてもらえる、と言われたこと。

剪定の資格を取る日に、休みを使わなくていいと聞いたこと。

三つとも、月給の額の話ではありません。写真をめくっていた時間。現場をひとつ任せると言われた一言。休みを削らずに資格が取れると知ったとき。決めた日の記憶は、これくらいの細かさで残っているものだと思います。

未経験歓迎、のその先

求人票には、未経験歓迎、と書いてあることがよくあります。読んだ人が知りたいのは、たぶんその先です。未経験で入ったら、何をどんな順番で覚えるのか。

この会社なら、こんなふうに書けます。最初の三か月は、道具の名前と、木の名前を覚えるところから。脚立に乗るのは、四か月目から。

ここまで書いてあると、庭の仕事をしたことのない人でも、自分の三か月後をなんとなく思い浮かべられます。

アットホームな職場です、の中身

もうひとつ、よく見かけるのが、アットホームな職場です、という一文です。書いた人は、職場の空気を伝えたつもりでいます。ただ、読んだ人には、まだ何も渡っていません。

この会社の朝と昼を、そのまま書いてみます。

朝、軽トラックに道具を積むところには、社長も出てきます。昼は現場で、みんなでご飯を食べます。

これを読んで、いいなと思う人もいれば、昼はひとりで静かにしていたいな、と思う人もいます。どちらでもいいのだと思います。合う合わないが先に分かるほうが、たぶんお互いに楽です。

歯医者さんの場合

もうひとつ、作りごとの話を。歯科衛生士さんの募集で、未経験・ブランク歓迎、土日休み、と書いてあったとします。

入った人に決め手を聞いたら、ひとりの患者さんを、最初から最後まで自分が見られると言われたから、と返ってきたとします。すると、一番上に置く言葉が変わってきます。

担当制です。予防のメンテナンスは、最初に会った衛生士が最後まで見ます。

この一文を読んで、自分のことのように感じる人がいると思います。歯科衛生士として働いてきて、患者さんの途中で担当が替わるのが気になっていた人には、なおさら届くはずです。

決めた日のことを聞いてみる

もしいま、人を探しているところなら、ここ三年で入った人に、ひとつだけ聞いてみてください。ほかにも受けていた会社があった中で、うちに決めたのは何でしたか。

返ってきた言葉は、きれいにまとめずに、そのまま書き留めておきます。まとめてしまうと、仕事の内容、といった一般的な言い方に戻ってしまうからです。庭の写真、一年目の現場、資格を取る日。その粒のまま残しておくほうが、あとで使えます。

会社を探している人も、自分がいまの会社に決めた日のことを思い出してみると、おもしろいかもしれません。額の大きさより、誰かに言われた一言や、見せてもらった写真のほうが、案外はっきり残っていたりします。