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MAGAZINE|2023.9.19
住み慣れた土地を離れ、新たな場所で生活を始める「移住する人たち」。
彼らはなぜその場所を選び、そこでどんな日々を過ごしているのでしょうか。
今回は、暮らす場所を長野県に移した2名のスタッフに、移住のあれこれをお話ししていただきました。
■つっきーさん
千葉県出身。アプリコットデザインのディレクター兼デザイナーで、coron farm design代表を務める。大学時代は東京に住み、就職を機に諏訪へ移住。転勤で大阪に1年間住んだのち、白馬に移住する。
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■はちさん
富山県出身。アプリコットデザインの広報担当。東京の専門学校を経て、都内で就職。夫の転勤で岐阜に2年間住んだのち、松本に移住する。
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はち:改めて、今日はよろしくお願いします。つっきーは白馬に住んで長いけど、そもそもどうして白馬に移住したんだっけ?
つっきー:新卒で入社したのがアウトドアメーカーで、配属が諏訪だったんだ。そこで販売員として働いていて。アウトドアメーカーだったからフィールドに出てアウトドアを体験したほうがいいというのもあって、休みの日に白馬まで出かけて、カヌーやスキーをやるようになったのがきっかけかな。
はち:諏訪からだと白馬ってそんなに遠くないもんね。つっきーはもともとアウトドアスポーツが好きだったの?
つっきー:幼い頃からスキーには連れて行ってもらっていたから山に対して抵抗感はなかったと思う。それに、僕が就職活動のときってちょうど就職氷河期でさ、卒業制作もかねて現実逃避に山奥でサバイバル生活をしたことがあって。それがアウトドアとの出会いでもあったんだ(笑)
はち:就職活動の現実逃避にサバイバル生活って、思い切ったね(笑)でもそこからどういう経緯で移住を決意したの?
つっきー:しばらく諏訪で働いた後、本社のある大阪に転勤したんだ。もともと大学でデザインを勉強していたから、デザインをする部署で仕事をすることになって。でもご存知の通り、大阪には雪山がないんだよね。それで、だんだん白馬に戻りたくなってしまって。思い立って、退職して白馬に移住したんだ。はちさんはなんで松本に移住したの?
はち:きっかけは夫の転職だね。夫は生産技術の仕事をしてるから、働きたい会社を探して働く県にこだわらず全国で就職活動をしてたんだ。その中で、たまたまご縁があったのが松本の会社で。松本に移住する前は夫の前職の転勤で岐阜県に2年ほど住んでいたんだけど、実はその頃から松本は気になっていたんだよね。
つっきー:どうして?
はち:もともと「民藝」が好きなので、岐阜に住んでいた頃「まつもとクラフトフェア」によく行ってて。夫とも“いつかこの街に住みたいね”なんて言ってたんだけど、1年後に松本に住むことになるとは思わなかった(笑)
つっきー:縁もゆかりもない場所への移住ってけっこう不安だと思うんだけど、移住が決まったときの心境ってどうだった?
はち:実は松本に移住したときはそんなに不安じゃなかったんだよね。その前の岐阜での生活が糧になったというか。岐阜への移住が決まったときはすごく不安だった。学生時代から東京に住み慣れていたのもあって、不便じゃないかとか、2人だけの孤独な生活になってしまうのではないかとか(笑)
つっきー:実際、岐阜での生活はどうだった?
はち:私も夫もお酒が好きなので、飲み屋さんで人脈を広げていったんだ。それと、私はこの頃からウェブの勉強を始めたんだけど、通ってたスクールでも友達ができたから、地方に移住しても案外どうとでもなるなって思えたんだよね。
つっきー:その勢いのまま松本に移住できたってことかな?
はち:そうだね。それに、松本は以前から憧れてた街だったのもあって、楽しみな気持ちの方が強かったなあ。その当時、「ローカルコミュニティ」に興味を持ち始めたところだったし。つっきーはどうだったの?
つっきー:ワクワクが止まらん!って感じだった(笑)僕も白馬は憧れの場所だったからね。
はち:私は松本に住み始めてから転職活動をしたけど、つっきーは仕事を決めてから白馬に移住したんだっけ?
つっきー:そうだよ。農業法人で農作物のパッケージデザインや飲食店メニューのデザインをさせてもらうことになってた!
はち:アウトドアメーカーからどうして農業法人に?
つっきー:白馬で何をしようかなって考えているときに、その当時働いていたアウトドアメーカーで登山用の携行食を売ってたのを思い出したんだよね。携行食でその土地のものが食べられたらいいなあって思って、白馬で食品メーカーを起業しようかなって考えて。でもそこで、“農業をやったことがないのに食品を扱うなんて無責任だ”と思って、生産現場を知ろうってことで農業法人で働かせてもらうことにしたんだ。
はち:つっきーは白馬で農業を学ぶこと、私は松本で人脈をつくること。それぞれに興味のあることがあって、しかも移り住む場所が憧れの場所だったから、あまり不安も感じなかったのかもね。
つっきー:はちさんは、移住してから何か生活の変化ってあった?
はち:一番大きな変化は、趣味中心の生活になったことかなあ。松本に引っ越してから、山登りに熱中して、自然ありきの暮らしになったんだよね。特に東京に住んでた頃は、遊びといえば買い物とかお金を使うようなことが多くて、生きてくことで精一杯って感じだったと思う。生きるために生活してた、みたいな。
つっきー:地方に住んでると友達に「何もないじゃん」って言われることもあるんだけどさ、何もないけど何でもあるんだよね(笑)
はち:そうなんだよ!余白なんだよね。何でも生み出せる余白がある感じ。
つっきー:自然の中にいるときって、「生きた心地がする瞬間」みたいなものがあって。なんていうんだろう、ヒリヒリ、ヒヤヒヤする、みたいな。僕は釣りやスキーが好きなので、命のスリルのようなものを感じることが多いんです。
はち:魚を捌いたり、お肉や植物をいただいたりね。少し前まで生きてた命を感じることって増えたよね。そういうところも含め、目に映るものすべてが新鮮で独特な暮らしだと思う。
つっきー:はちさんは松本に移住して、どうして登山をしようと思ったの?
はち:引っ越してきて、毎日北アルプスを見てたら”あそこに登ってみたいな“って思うようになったんだよね。それで実際に登ってみたらすごく自分に合ってて。登山って結構つらいんだけど、すべて自己責任なのが好きなんだ。仕事をしていると、チームでやっていて責任の所在を考えてモヤモヤすることもあるじゃない(笑)でも登山は良くも悪くも自分次第というか。何が起きても誰かのせいじゃなくて自分の責任だからさ。それがなんか、いいなって思ったんだ。
つっきー:スキーもそうかも。チームでやる競技じゃなくて、個人で楽しみたいなって思う。
はち:私たち、プライベートは個人戦を楽しみたいタイプなのかもね(笑)つっきーさんは生活の変化ってあったの?
つっきー:冬がきたときに、白馬村の大自然を感じたのは印象に残ってるよ。冬の過酷さがとんでもなくて!除雪に追われたり、水道管が破裂したり・・・あれは都会に住んでた頃には味わえなかった経験だよね。
でも、自分の中では理想の暮らしを手に入れられたなあって思ってて。夏は家族でバーベキューをやるんだ。白馬から少し車を走らせれば海釣りもできるしね。家の前には田んぼが広がってるんだけど、犬の散歩をしながら広い空を眺めて、自然の変化や壮大さを日々感じてる。冬は、ずっとスキーをしてるかな。
はち:呼吸をするようにスキーをしてるみたいなね(笑)
つっきー:本当にそんな感じ。冬はものすごく雪が積もるから、家の屋根の上からスキーで滑り降りたりできるんだよね。それで子どもがスキーの練習をしたり、犬ぞりをやったりもするよ。
はち:いいなー!白馬!
つっきー:移住してから時間が経ってきたけど、自分が住んでいる場所について今思うことってある?
はち:難しい質問だね、それ(笑)松本は今も昔もずっと面白い街だと思う。住んでいる人、訪れる人をいつでも飽きさせないなって。ただ、それ以上に松本で出会った人たちとの繋がりが私にとっては大切かも。
登山を始めて、SNSを通じて同世代の友達が増えて、同じものを好きな人との密度がすごく高くなったんだよね。だから、何年か前に知り合った同世代の友達が、最近になって新しいライフステージを迎えているのを見たりとかすると、すごく感慨深いなあって思う。みんなそれぞれ違うところから松本に移住してきて、知り合って、いまそれを近くで見守り合えるのって、すごく不思議だなって。そういった繋がりを、今後も変わらず大切にしていきたいって思ってるかな。つっきーはどう?
つっきー:白馬に暮らし始めた頃は知り合いが全然いなかったわけだけど、近所のお父さんお母さんやパパ友がいろいろ手助けしてくれたのがすごくありがたかったなあ。畑の野菜を分けてもらったりとかね。田舎は閉鎖的なイメージを持つ人もいると思うんだけど、そんなことなかった。だから今後は、白馬に住んでいる人に恩返ししていきたいっていう思いがすごくあるよ。
はち:どういう形で恩返ししていきたいの?
つっきー:この村ではそれぞれの人がそれぞれの立場で課題を感じていて。たとえば宿泊業をやられている方だったら予約システムの導入のこととか、集客の仕方とか。仲良くなったことで見えてきた課題を、僕の立場でも解決するお手伝いができたらいいなって思ってる。
それから、農業が好きだから、遊休放棄地を復活させる手段としてくるみ栽培をやっていきたいんだよね。くるみってすごく美味しくて栄養がたっぷり入ってるから、それを登山の携行食として提供できたらいいなって思うんだ。
はち:白馬の山に登って、白馬でつくったものが食べられたら最高だね。つっきーに作ってほしい!
つっきー:やるなら自分にしかできない方法で地域貢献をしたいという思いもあって、遊休放棄地の再生とくるみの生産は、農業が好きで白馬で暮らしている僕なりの挑戦でもあるかなと思っています。
そこで暮らす人たちとの繋がりやそこにある自然の恵みをめいっぱい楽しむ姿勢が、心地よい暮らしをつくっていくのかもしれない。それぞれの場所で自分なりの過ごし方を見つけて暮らすつっきーさんとはちさんの対話を聞きながら、そんなことを感じました。
(記事:tone villageメディア編集部 くう)
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